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第9話:床矯正治療について

最近、床矯正をすすめられたとか、拡大をしましょうという他院での説明の後で相談として来院する方が非常に多いです。

別項でも書いたように床矯正という治療法はすべての場合でだめということはありません。上手くいくこともあるとは思います。でも床矯正を適用できる症例はそれほど多くないはずです。このことが実際に床矯正治療をやられている先生も理解されていないことが多いような気がしています。

まず床矯正治療だけをおこなっているような矯正専門ではない先生の多くと、患者さん側に共通の誤解があります。

顎を広げているか、歯列を広げているかの違い

実は床矯正装置では骨格自体は広がりません。歯は歯槽骨という骨に埋まっていますが、これは上顎や下顎のベースとなる骨に歯列に沿ってU字型にのっかっています。歯が内側に向かって倒れているような場合は、歯槽骨も歯と一緒に倒れ込んでいる場合が多く、歯を広げることで歯とともに倒れ込んでいる歯槽骨も広がるため、床矯正装置でも歯列を広げることはできます。

しかしこれは顎を広げているのではなく歯列を広げているだけですし、このような治療は若年者しかできないということではなく、小学校低学年や乳歯列期にやらないと間に合わないというものではありません。

またこれは顎を大きくする方法ではないので、過度に行えば歯を骨の外においやるような結果になりかねません。このような場合は、歯茎がさがり歯根が露出したり、歯の神経が死んでしまうようなことさえ起きてしまいます。

床矯正では、歯列を横に広げるだけでなく前方に広げることもあるようですが、この場合は前歯がどんどんでてきますので歯はきれいに並ぶけれど出っ歯になったり、口元が突出してきたりという悪い結果がでることがあります。

このようなことが起きてしまうと、状況によっては 床矯正治療をする前よりも後の方が状況が悪いということになります。お金と時間をかけたのにも関わらず、かえって悪くなるわけです。典型的な残念な矯正治療になります。

専門医が使う急速拡大装置

骨格ごと顎の幅を拡大する場合、矯正専門医は急速拡大装置という装置を使います。これは上顎の口蓋にある骨の縫合を強い力で開く方法です。何歳までこの方法が適用できるかという点に関しては近年意見がわかれるところですが、やはり確実なのは小学校の間というところではないかと思っています。

この装置自体は力が強いので永久歯を介して力をかけることが多く、拡大が可能な年齢と合わせて考えると、第一小臼歯という歯が生えたところにやることが私は多く、それがやはり小学校高学年程度頃ということが多くなります。したがって骨格の拡大を行うのは早い方が良いということはないということになります。

しかし、このような骨格自体から広げる装置を使っても、上顎は広がっても下顎は広がらないというのが、歯科矯正学の教科書にも載っている基本中の基本です。となると、下顎が普通で上顎が小さい場合や、下顎が大きく上顎が普通の場合などは、上顎を下顎に合わせて広げてあげるようなことは可能かもしれません。

でも、例えば下顎も上顎も普通の場合、上顎だけ広げてしまうと、下顎の骨格は広げられませんから下顎をそれに追いつけることは出来ないわけです。

間違いを防ぐために、検査が必要

このような間違いを防ぐには、顎の大きさを計測して狭い場合は、広げるという選択肢もありますが、普通の場合は広げない という選択肢を考えなくてはなりません。私は患者さんには「顎が小さければ顎は広げます。でもそうでなければ歯を並べるために標準値を越えて顎を大きくすることはしません。」とお話しています。

このような場合は、「でこぼこの原因は顎にあるのではなく、歯にあるので歯の方で解決するのが理にかなっています」と説明します。多くの保護者の方はこの説明に納得されます。これは身体のことを考えればすごく当たり前の話だと思うのです。原因となるものについてアプローチして治療をするということです。

顎が小さいと言われて床矯正を勧められたとおっしゃった患者さんのお母様に次のように聞いたことがあります。「その先生はどのような検査をして顎が小さいとおっしゃったのですか?」すると「いや、見ただけで特に検査は何もしていない。」というのです。その先生はよほどの達人かいい加減かのどちらかかと思います。年間100人以上の患者さんをみる私でも、見ただけでは顎の大きさは判断できません。

僕からするとその先生は、でこぼこがあれば顎が小さいと 言っているにすぎないような気がします。どんな医療でも客観的な評価を行うために検査をします。見た目の症状などだけで診断を下すというのは非常におかしな話です。