第2話:本当の患者さんの満足とは?
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第2話:本当の患者さんの満足とは?
患者さんが満足することが一番という先生がいます。私もこの考えを否定するつもりはありません。
患者さんが満足しているという状態。
実はこれにはふたつのパターンがあると考えています。
1つ目は、良い治療が施されそれに対して患者さんも満足している状態。
2つ目は、患者さんの主訴(もっとも気になっているところ)が改善し患者さんも満足しているが、良い治療が施されていない場合です。
私が疑問を感じるのは、患者さんが満足すればどんな治療でも良いのかというところです。
見た目だけではない治療の意味
私は中学校の校医をやっていますが、以前残念な治療が行われた生徒に出くわし暗澹たる気持ちになりました。おそらくは拡大床という上顎の幅をひろげる装置で上顎の幅を広げ、前歯のデコボコをとっています。でもその結果、広げられた奥歯は下の歯とほとんど噛み合わず、前歯においてもいわゆる出っ歯のような状態になっており全く噛み合っていません。咬合崩壊と言っても良いような状態でした。
それでも患者さんは抜歯をせずに取り外しのできる装置で前歯のデコボコがとれたと満足しているのだろうなあと思いました。こういう治療をみてしまうと「患者さんの満足が一番」という題目には賛成しかねるのです。
満足と良い結果のどちらもがないといけない
患者さんが満足することがいけないということではもちろんありません。患者さんが満足してもらいつつ、歯科医学的に正しい治療をするのは当たり前ですし、患者さん側も、もちろん正しい治療という一線は踏み外していないとおもっているのに違いないのです。
治療を受けた患者さんは不適切な矯正治療によって噛み合わせが悪くなってしまうことなど予想していないに違いありません。
不適切な治療によっておこるのは噛み合わせが悪くなることだけではありません。
拡大床という治療法
残念な治療の原因として、我々が目にすることが多い治療法のひとつが拡大床というものを使ったやりかたです。私も拡大床を全て否定するわけではありません。治療のタイミングと症例を選べば上手くいくこともあると思います。逆にいうと、元々無理という症例もあるし、できる症例でも治療のタイミングがとても重要というわけです。
見た目を治すためになんでも犠牲にしてよいのか?
2013年の日本臨床矯正歯科医会の大会における臨床セミナーで拡大床の治療で本来は顎の骨にしっかりうまっているはずの歯根が、顎の骨からはみ出してしまった症例が示されました。
CTでもその様子がしっかりと確認でき、歯茎から根がみえるばかりでなく、歯の神経も死んでしまっていました。歯のデコボコを治すために、このようなことをやってもよいのでしょうか。会場からはため息がもれていました。
この症例ついては、抜歯をして治療をするというのが適切な方法だったに違いありません。患者さんは歯学部で勉強されているとのことでしたが、歯科医師からは抜歯をするという選択肢は示されなかったとのことです。
100歩譲って、歯根が顎の骨からはみ出てしまうというリスクを患者さんが自分で選んでも抜歯をしたくないということでしたら良かったかもしれません。でもこのケースはそうではありません。
もちろん、正しい方法は歯科医師が正しい治療の仕方として、抜歯をすすめ、抜歯をそれでもしないということであれば矯正治療によって得るものと失うものでは失うもののほうが大きいということを説明し、治療を始めないもしくは、抜歯して治療を始めるということです。
「歯を抜かない」が適切かをきちんと考える
この拡大床を使う治療の問題には、多くの患者さんが矯正治療で抜歯を嫌がるということも背景にあることは否定できません。拡大床は抜歯しないありきの治療なのです。
抜歯非抜歯のメリット・デメリットはまたあとでまとめますが、矯正専門医は患者さんが抜歯を喜ばないのを知っています。でもそれをすすめる場合、抜歯が患者さんにとって大きなメリットとなることを確信しているのだということをわかっていただければと思います。ちなみに日本臨床矯正歯科医会の会員調査によると、矯正専門医で構成されるこの会の抜歯治療率は約60%ということです。
院長
高橋 滋樹世界でもっとも伝統があるTweed philosophy(ツイード・フィロソ フィー)に基づく治療を実践。2015年には、アメリカのTweed philosophyスタディコースでインストラクターを取得し、ツイードテ クニックをマスターしています。